Hot Thumbs O'Riley / Wicked Ivory (Love)

WICKED IVORY
 フィンランドの70年代を代表するロック・バンド(そしてヴァージンが初めて契約した北欧のバンド)、Wigwam(現在ノルウェーに同名のハード・ロック・バンドがいるらしいので混同注意)のヴォーカリスト、Jim Pembrokeのファースト・ソロ(72年)。これが実に後期ビートルズ的というかキンクスをバックにニルソンが歌うみたいなひなびたペーソスに溢れた素敵ポップ(微妙にコンセプト・アルバム?)になっていて、実はウィグワムの諸作よりも好きかもしれない。そもそもヴォーカリスト自身は英国出身だそうで、その出自的なもの(ネジれとユーモア)がこのソロ作では素直に表れているのかもしれない。そういえば、ウィグワムのライヴ・アルバムはビートルズのカヴァーが多かったっけ。

Envelopes / Smoke In the desert (Brille)


 スウェーデンの期待の新人エンヴェロープスの新作ep。前作「Free Jazz」(傑作)が♀ヴォーカルを大フィーチャーしたドポップ路線だったのけど、今作は結構ハード。ピクシーズの『サーファー・ローザ』がアラビアに迷い込んじゃったみたいな、焦燥感を砂漠に置き換えたが如きネジれたデザート・ロック(ってストーナーじゃないよ)はやっぱり一筋縄で行かない奇妙な魅力を放ってる。ただ、このバンドはやっぱり♂ヴォーカルよりも♀ヴォーカルの方がキャラが立ってるから、そういう意味で今回はあんまり出番がなかったのが残念。

Coach Fingers / One For The Road


 No neck blues bandっていまいち好きになれないのだけど、そのメンバーが別にやっているこのバンドの素晴らしさは何なんだろう。70年代東海岸サイケ、ザッパあたりのネジれ方にも連なるような、90年代のUncle Wiggly、Fly Ashtrayとかとも共振性を感じさせるような、カントリー的な呑気さとエグいフリーク・アウト感覚がごく自然にさりげなく共存しちゃってる感じがこっちの脳内時計をジワリジワリと狂わせる。70年代の写真や映像の質感に特有の、あの若干漂泊された感じがうっすらとこちらの脳内にもかかってくるような(判りにくい)。この、一応song-orientedではありつつも、pitchforkですらおそらく盛り上げようのないであろう時間軸のネジ曲がったヘンな存在感がたまらなくカッコいいです。これはツアーepでwarszawaで買ったものだけど、locustから正式なファーストNo Flies on Frankが出ていて、こちらは普通に手に入ると思います。

昼と夜

ナイト・アンド・デイ

ナイト・アンド・デイ

何事も過程が一番楽しいんじゃないかっていうお話。

結果よりプロセス。結果は常に過去形で、プロセスは常に現在進行形だ。遠足で一番テンションが上がるのは現地に着くまでだったりするし、フジロックで一番テンション上がるのはあの退屈なバスの窓からカラフルなテントの山が見えた瞬間だったりもする。ロックに失望してイギリスからニューヨークにやってきた一人の青年が、大都会の洗練を身につけながらもジャズやラテンといったさまざまな外側の世界の音楽の魅力に気づき、ロックという空港からまた別のジャズやラテンといった空港、目的地に向かってジェット機で向かっている。その機内でのワクワク感、浮かれたテンションを見事に表しているのがこのアルバムだ。飛行機で飛んでいるだけあってまさに地に足の着かない感じ。ひとつの世界から別の世界へステッピン・アウトしていく足取りの軽やかさ。小躍り感。ジャンルとジャンルの境目にあるエアポケット。これが彼の音楽的興奮(とチャート)におけるピークであったことは皮肉ではあるけれども、音楽っていうのは成熟や完成度とはまったく異なる別の魅力も存在するということ。だからこそ、世界中の地域性に根ざしたドメスティックな音楽も勿論面白いけれど、やっぱり大都会の軋轢と摩擦が生み出すロックも面白いし、何より、“何かに向かって動いている音楽”ほど面白いものはない。

おかず五品

Golden Age of Wireless
Blue
English Settlement (Lp-Facsimile)
Naked
THE NIGHT FLY

Fluorescent Grey Ep

Fluorescent Grey Ep

 ポップになったJESSAMINEというか。ダウナーでどこか緩い部分のあるアンサンブルの中にゆらめくポップな蜃気楼メロディが何だかすごく親近感を覚える。いい意味で隙のあるバンド。SUPERCARを始めて聴いた時の感覚を思い出したりも。そういう意味で「難解、暗黒、実験的」というレーベルのイメージをいくらかでもやわらげてくれるような存在になってくれることを願います。

SEX CHANGE

SEX CHANGE

 !!!もバトルスもいいけれど、やっぱり彼らだって忘れちゃいけない、ハイパー・インスト・トリオ、Trans Am4年ぶりの復活作は、長いブランク後に心機一転、住居も性別(?)もチェンジしての会心作! ニュー・ジーランドでTALL DWARFSのCHRIS KNOX所有の機材を借りて録音されていたりとか、録音が煮詰まった時にENOの「オブリーク・ストラテジー」を採用したという細かいコネタからして面白いのだけれど、言われてみるとこのシンセ音の感じはまさに「男か女かよくわからない」頃のイーノを思わせるいい意味での気持ち悪さに満ちていることに気づきます。南半球と北半球をまたいだスケールの大きな、尚且つスポンティニアスな人力テクノ・ポップを乗せた「TRANS-SEXUAL EXPRESS」が刻むビートが、またもうひとつの緑の世界(ピンクかもしれない)に突入していくが如き、ストレンジ・エレクトロ・ポップの傑作。

Puddle City Racing Lights [ボーナストラック2曲・歌詞対訳・日本語解説付き国内盤] (BRC-178)

Puddle City Racing Lights [ボーナストラック2曲・歌詞対訳・日本語解説付き国内盤] (BRC-178)

 イギリスから見た憧れのアメリカ、所謂ブロークン系のシンガーソングライターで、身も蓋もない言い方をしてしまうとリップス・ワナビー、所謂「フリードマンサウンドの流派に属する音。そこらへんは歌い方やドラムの録り方からして明白なのですが、しかし先人達にあるようなぶっ倒れるまで飲んだ次の日の朝みたいな、頭の中で不協和音がガンガン鳴っているような悪夢にも似た覚醒感、酩酊感、カオスみたいなものは薄く、そうなるのを見越した上で懐にキャベジンを用意しているかのような計算と周到性がある。例えば同時代のSEVENTEEN EVERGREENやBESNARD LAKESといった同流派達のアプローチに比べると、そういう部分でややスケール感に欠ける部分は否めない(これはバックを務めているTHE EARLIESのサウンドに漂う「箱庭性」にも通じる性質だと思う)。但し、こういったサウンドを、例えばKEANECOLDPLAYなどの所謂「うたもの系UKロック」における応用として捉えると話は別だ。ひとつのエモーショナルの表し方として、この唐突なまでの明るさとメランコリーとを同時に湛えた音楽表現は、より開かれた大衆にとって大きなインパクトを持ち得るだろう。