聖ダンスタンス通りの盲犬

caravan


CARAVAN / BLIND DOG AT ST.DUNSTANS

 いいなぁ、キャラヴァン。所謂カンタベリー一派としては唯一現役であるにもかかわらず、Soft Machineほどクールではなく、Gongほどぶっ飛んでなくて、Hatfield & The Northほど洗練されていないというその中道的な音楽性ゆえにいまいち顧みられる事の少ないバンドだと思います。それでもRichard Sinclairのヴォーカルが素晴らしい『グレイとピンクの地』や、最高傑作といわれる『夜ごと太る女のために』辺りはカンタベリーを代表する名盤として紹介されることも多いのですが、『ロッキン・コンチェルト』以降のポップ路線はほとんど黙殺されているような気がします。こんなに素晴らしいのに。というわけで今回はその次の『聖ダンスタンス通りの盲犬』をご紹介。ここで聴ける吹っ切れたポップ路線はカンタベリーというよりはStackridgeにも負けないブリティッシュ・ポップの王道として聴くべき一枚。 管楽器等を交え、厚みがありつつも柔軟性にも富んだ充実のバンド・アンサンブルに、Pye Hastingsのハスキーで甲高いヴォーカルがまるで快晴の上空をゆっくりと横切っていく飛行機雲の如く伸びやかに響き渡るという抜けのいいポップさこそがこの時期のキャラバンの醍醐味でしょう。さらにところどころで挟み込まれるユーモアにニヤリとさせられたりも。ポップになったからといって売れ線に走って安っぽくなっちゃった感が皆無なのは、やはりそれまで積み上げてきたキャリアと、地に足の着いたバンドのスタンスとががっちり合致した結果といえるでしょう。76年というとパンク前夜の、70年代始めに活動を開始したバンドが皆袋小路にハマって行く頃ですが、そんな中でも地道に前進を止めなかった彼らのこのアルバムはバンドとしての成熟という意味で頂点に位置する作品だと思います(それでもこの後袋小路にはまってしまうのですが)。それより何より魅力的なのはこのアルバムを聴くと「聖ダンスタンス通り」に(行ったこともないのに)行った気になれること。きっとイギリスの田舎の通りって、こんな風に賑やかでちょっとヘンテコでいなたいけれど、何だか楽しそうだなぁと思わず妄想してしまうのです。