アンディ・プラット

andy pratt


ANDY PRATT / ANDY PRATT (SONY
 一言で言うと過剰ポップ。このアルバムには突っ込み所が色々あるのですが、まずこの濃い内容にしてそんなそっけないジャケはないだろうというのは当然として(これ所謂スカシってやつですかね)、ファルセットと地声を器用に使い分けるヴォーカルのもつ過剰なまでのポップネスに一曲目から圧倒されます。お前それやりすぎやろ、と。例えば竹中直人が時たま深夜番組で垣間見せる情緒不安定な不条理人間のそれにも近い、もしくはコロッケの演じるちあきなおみの顔がメーター振り切ってなんか違うものになってしまう時のそれに近いポップスです。って、もう何がなにやら。こう書くと相当奇々怪々アヴァンギャルド作品のように聴こえますが、ポップ・ソングとしての質は例えば同時代(アルバムのリリースは73年)のQUEENやPILOT、さらにTODD RUNDGREN、そして今で言うならばJELLYFISHBEN FOLDS辺りと比べてもなんら遜色のない、極めて高品質のものばかりなのです。歌も演奏も相当巧い。しかしそれなのにこの人が歌うことによってまさにちあきなおみ(ポップ・ソング)から別の生物(未知との遭遇)へとトランスフォーメーションしてしまっているところがこのアルバムの肝です。キモー。3曲目なんてまるでPETER IVERSとBRIAN PROTHEROEの人格をもつ分裂症気味の人が情感たっぷりに歌ってるみたいで相当にヤバい。あ、PRINCEもちょっと入ってるかなぁ。とにかく不遇のポップ職人につきまとい気味な「器用貧乏」というイメージを返し刀で豪快にバッサリと切って落とした後にその刀を舌ででろーんって舐めてそうな神経症的な歌いっぷりがハマると最高に気持ちイイ。っていうかこの人の素性が知りたいよ。あんた何者なんだよ。THE WHOのROGERに曲を提供してヒットさせたことで有名っていう微妙なバイオグラフィも突っ込みどころのひとつだよ。それにしても突き詰めすぎておかしくなりがちなスタジオ引きこもり系ミュージシャンの内包する変態性を自らの歌唱で体現することで完全に外側に晒すことによって、ネガからポジへと反転させ一流のエンターテイメント化してしまっているとこなんかはもはや感動的ですらあります。もし竹中直人が街中を笑いながら怒りつつ歩いてても誰も文句は言えないでしょ?そんなポップ・アルバム。