間違いない

Nothing Wrong

Nothing Wrong

 当時(1988年)はあまり評価されなかったけれど今振り返ってみると面白い典型的な良性B級バンドである。Red Lorry Yellow Lorry。音はダークで攻撃的なのだが、ポップなのだ。妙に。一曲一曲が短く、コンパクト。無表情な仏頂面の人が気の効いたジョークを連発しているような、矛盾した不条理的面白さがある。

 Sisters Of Mercyフォロワーと認識されていた彼らがその発展形として、このようなコンパクト化、楽曲におけるポップという側面を強めたことは、当時盛り下がり気味だったGothが生き残るために模索したひとつのアプローチだったといえるだろう。また、インパクトの強いバリトン・ヴォーカルの奥に隠れて一見目立たないが、後のシューゲイザーを予見するようなネオ・サイケデリア的なアシッド感に溢れたギター・サウンドと、時にマシーナリーに響く無機的な打ち込みビート、それらが織り成すモノクロームかつオブスキュアな音像からは、例えばGothの典型的なバンドばかりではなく、ともすれば同時代に活発に活動を繰り広げたBig Black周辺のUSジャンク勢からのUKからの返答とも呼ぶべきエッジーな感覚をも含しており、それはBastroやGodfleshがこのすぐ後に試みたアプローチにも通じるものだ。

 つまりこのアルバムは当時(80年代後半)の音楽シーンの状況を冷静に俯瞰し、その様々な影響を少しずつニュアンスとして取り入れつつ、より普遍性の高いポップ化をもくろんだ、(ややぎこちなくはあったが)志の高いものだったといえるだろう。決してゴスという世界観を固持するのではなく、その外側に飛び出す、もしくは異化するためのアプローチ。しかし、続くアルバム『Blow』ではここでの試みを無に帰すような「It was wrong」というタイトルの楽曲があり、それが必ずしも本人達の納得のいくものではなかったことが推測されるのだが、しかし、『Blow』で展開されている平凡なカレッジ・ギター・バンド然と化したやや抑揚に乏しいサウンドを聴く限りでは、この『Nothing Wrong』でのアプローチはまさしくタイトルどおり「全く正しい」ものだったと言わざるを得ない。

おかず五品

Isn't Anything
Pure
A Gilded Eternity
シング・ザ・トラブルド・ビースト+バストロ・ディアブロ・グアポ
First Last & Always