岩石庭園
- アーティスト: Pole
- 出版社/メーカー: Scape Germany
- 発売日: 2007/04/03
- メディア: CD
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ひそやかな「謎」がいくつも込められたアルバム。その「謎」は別に探さなくてもいいし、もしかして特に答えを用意していないのかもしれない。「謎」言い換えれば「存在理由の見当たらなさ」をあちこち無造作に、しかしおそらく丁寧に慎重に配したこの奇妙でチャーミングさすらも湛えた隙間だらけの電子音楽。ドイツから生まれるべくして、いやドイツ以外からは生まれようもない音楽。
「重量から解放されたダブ」という人もいれば、「もしもチュードアがジャマイカ人だったら」という妙な仮定を唱える人もいるかもしれない。そう、よくわからないのだ。意図が。まず、そもそも彼はなぜ前作で唐突にヒップホップに走ったのか? そこからの反動か?(あれは実際やりにくそうだった)しかしその音はただ奇妙な反復を奏でるだけでその「意味」を黙して語らない。
POLEはここで一度解体された。いや溶解したというべきか。解体されたものをもう一度彼自身のデリケートなやり方で、POLEらしく拾い集め直したのがこのアルバムだともいえる。
なぜ、殆どの曲で低音が意図的にオミットされてるのか?なぜ、ファズ・ギターみたいな騒音が脈絡なく挿入されるのか?なぜ、曖昧な電子音が最後に突然蝉の鳴き声に変わるのか?なぜ、校庭に机で「9」の文字を書いたのか?
いくつもの「なぜ?」に満たされた空間は、しかしその「?」の頭部分の曲線が描くような、緩やかな「カーヴを描いた空気」の中、終始穏やかな虹色の表情をみせる、どこかの異世界、または異次元、もしくは「違う意識の層(ユートピア)」で鳴らされてるような不思議な開放感にも似た空気に満たされている。それこそが彼が設計したこの奇妙な造形のSteingarten(=岩石庭園)なのだろう。わかるのはそれくらいだ。
ちなみにこれは近年のJan JelinekやThomas Brinkmann、Ricardo Villalobosらの音の変化と(偶然にも?)歩調をあわせたもののようにも聴こえる。それは、音の輪郭と意味性と境界線がどこまでもぼやけていき、残った気配だけでグルーヴするような、「溶けていくダンス・ミュージック」とでも呼べるものだ。