メキシコの教会

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Mexican Church

Mexican Church

詳しいことはよく知らないのだけど、知らなくても特に問題はないし、むしろ知らない方がいいこともある。これなんかもその典型だ。

『MEXICAN CHURCH』とタイトルの付けられた一枚のCD。アーティスト名はシンプルにBLUE。ジャケットにはたしかにぼんやりとした「教会のようなもの」が映っている。オレンジをバックに青白いぼんやりとしたその色彩はある種異様な存在感を放っている。その裏側にはサボテンを沢山パンに挟んだ、食べたら痛そうな「サボテン・サンドイッチ」が映っている。

PUBLISHINGとCOPYRIGHTにはSABERS OF PARADISE 1996という表記があり、このことから、このCDがSABERS、即ちANDREW WEATHERALL(現TWO LONE SWORDSMEN)との関連があり、さらにその時期にリリースされたものであろうと推測される。またそのすぐ上には「ALL TRACKS WRITTEN PRODUCED AND MIXED BY DARKING/ MANN」というクレジットがある。

CDをプレイヤーに入れて音を鳴らしてみる。一言で言うとDub色の強いテクノ/エレクトロニカ。まず、音色の選択から、それらの音の構成/配置が非常に秀逸で、それだけでひとつの確固とした重厚な世界観が構築されている。その世界観とはGORGON, DARK BLUE, MASS, METAL, SHE'S MACHINE, SAND STONEといったタイトルからも想起されるように、基調となるトーンはダークでゴシック。さらに、かつて80年代にINDUSTRIAL/NOISEと呼ばれた連中が好んで用いたような亡霊のような不気味な音色の電子音を輪郭のはっきりとしたビートの奥にそっと忍ばせるのが非常に巧く、それがある種心霊的な、人を不安に陥れるような効果を挙げている。

96年というと、PORTISHEADなどを筆頭に、TRIP HOPと呼ばれたアブストラクトなビートを展開するアーティストが活躍した時代で、このアルバムもその流れの延長線上にあるものだ。しかし、当時も、そして現在もこれといって特に顧みられないのは、EMISSIONS AUDIO OUTPUTという小さいインディ・レーベルからのリリースだったことや、さらに、その情報量の少なさや匿名性の高さにより、人知れず密かに埋もれていってしまったものだと推測される(ネット上でも出身地等、アーティストの詳細は全く掴めなかった)。しかしまさにこの匿名性の高さこそ、心霊写真的ともいえる不穏な音像との相乗効果で、アルバム全体に流れるミステリアスさを魅力的に際立てているともいえ、PORTISHEADBOARDS OF CANADAの間を繋ぐミッシング・リンクとして捉えることも可能だ。少なくとも、96年という年の裏側で(おそらく)二人の人間によってこっそりと作られていた、謎めいたサボテン型の音の存在は記憶しておいても損は無いだろう。このアルバムはそれだけのクオリティを備えている。

昔読んだ心霊の本に、メキシコだったかアメリカだったかの牧場に現れた幽霊の記述を妙に憶えている。それはとてもよく晴れた日の昼に突然出現して楽しそう微笑んでいたかと思うと、急にふっと姿を消したという。

詳しいことはよく知らないのだけど、知らなくても特に問題はないし、むしろ知らない方がいいこともある。これなんかもその典型だ。


おかず五品

Haunted Dancehall
Music Has the Right to Children
Evanescence
Blue Lines
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