キノコノコ
- アーティスト: Jan Jelinek
- 出版社/メーカー: Scape Germany
- 発売日: 2005/10/25
- メディア: CD
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canやfaust、amon duul、cluster、ash ra tempelなんかを始祖とする(もっといくとstockhausen)ドイツから生まれたロックの突然変異体、クラウトロック(70年代ジャーマン・ロック)。このちと変わった音楽は僕の捉え方でいくと植物でいうところの菌類、所謂「キノコ」に当たる。太陽の下で蜂や蝶に媚びて綺麗な花を咲かせるわけではなく、陽の当たらない森の中でひっそりと地面の下や腐った木の表面からいつの間にか奇妙な造形を伴ってニョキニョキと生え増殖してくるマッシュルーム達。「mushroom」といえばダモ鈴木がbeatlesの髪型を見て「キノコ雲を思い出すから死にたくなる」って嘆く歌があるけれど、実は彼らの存在自体がキノコだったのだ(え?)。というか、まだマッシュルームなんぞはカワイイもので、もっと森の奥の方を探っていくととんでもない毒キノコやらワライダケ、ベニテング辺りに辿りつくから要注意が必要だ。
90年代に入ってトリュフを嗅ぎ分けるかの如く地中に埋まっていたキノコ達を拾い上げたのが所謂「音響派」という人達(stereolab、tortoise他)だったのはもうキノコが腐って、そこからまたキノコが生えてくるほど何回も掘り返されてきている言い回しだけれども、それはまだあくまでクラウトロックの正確なトレース、コピーに過ぎなかったような気がする。
その点、このヤン・イェリネックの最新作は「本物」のキノコの匂いがする。クラウトロックをよく乾燥させてからそのエキスを正しく抽出し、その成分を研究して、ジャズやハウス的な要素とうまく掛け合わせることによって、そこからまた新しい形のキノコを作り出すことに成功している。勿論人工物であることに変わりはないのだけれど、70年代のクラウトキノコ達にあった無為な奇妙さや快楽性、そしてあの独特の“湿り気”がさりげなく自然に受け継がれているのが嬉しい。90年代を経た2000年代という視点からの、付け焼刃的でもなく、ハッタリでもない、実に自然な形での解釈から生まれるナチュラルな電子サイケデリア。とても奇妙で美しい形のキノコがここに咲いている。