不思議と寂しげな場所

Strangely Isolated Place

Strangely Isolated Place

 シンセの薄いレイヤーに包まれた音の浮遊感がひたすら心地いい、マイブラシューゲイザー世代のための極上のイージーリスニング・アルバム。「イージーリスニング」なんていうと聞こえは悪いけれど要するに「日常生活の邪魔をしない上質のBGM」になり得る音楽ということで、けっして蔑むような呼称には必ずしもならないことが何年か前のラウンジ・ブームで証明されているとおり、これは褒め言葉です。以前勤め先でMy Bloody Valentineの『Loveless』をかけながら勤務にいそしんでたら非常に気が散って全然仕事がはかどらなかったという苦い思い出があるのですが、あれはあくまで自分の部屋で(もしくはクラブで)大音量で没頭して(もしくは踊りながら)聴くものであるのに対し、こちらのウルリッヒ氏は朝の目覚め、昼の食事、晩の就寝時などあらゆる時間帯にフィットし、さらに職場もしくはスーパーもしくは空港のBGMとしても違和感なく対応できるというオールラウンドな音作り。それはマイブラというノイズの塊からそのノイズ部分を薄皮を剥がすように丁寧になめしていって、耳に害のあるアタック音を極力減らしてしまった音の耳ざわりの驚異的な良さに起因するものだと思われます。何かを足す作業ではなく何かを引く作業。それは「最小限の音数で最大限のイマジネーションを誘引させる奏法」で90年代に再評価された60〜70年代のハンガリー出身のギタリスト、ガボール・ザボの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」のカヴァーと(音的には全く異なりますが)考え方、アプローチとしては通じるものがあるのではないでしょうか。原曲のもつ私的感情やその他諸々の音楽に関係ない部分を一切カットし、残った音から純粋な快楽性のみをいかにうまく引き出し再構築するかというアプローチ。それが60年代にはガボが、そして2000年代にはこの「不思議と寂しげな場所」で甘美に鳴り響いていたのです。

おかず5品

ミズラブ
Slowdive Tribute: Blue Skied an Clear
Just for a Day
Loveless
ウィンド,スカイ・アンド・ダイアモンズ