うたう

カンタール

カンタール

 ここで鳴らされている音はとても軽くて涼しげで、丁度今の季節に感じる、冬を通り抜けた安堵感とやがて暑い夏がやってくることへの淡い焦燥感が入り混じった、何ともいえない宙ぶらりんの幸福感によく似ている。それはアレンジを務めているCaetano Velosoの“あるべきものだけがきっちりとそこにある”必要最小限のアレンジメントから生まれるひんやりとした静けさと、Joao Donatoのゆるゆるで生暖かいグルーヴ感(人間の平常時の心臓のBPMに近い)が共存していることも勿論あるのだけど、やっぱり何より主人公のGal Costa自身による「重力」というものの存在を根本から否定するような歌声が、真夜中に吹く春風のように耳の中を優しく吹き抜けるとなぜか意味もなく微笑んでしまいたくなるのだ。