12月23日の音飯

love and rockets

LOVE AND ROCKETS / LOVE AND ROCKETS (BEGGARS BANQUET)

89年の大ヒット作。なんてったってシングル「SO ALIVE」が全米ビルボード・チャート3位ですよ。3位。しかもこんな単純な曲が。ええ、当時リアルタイムで聴いてましたとも。「アメリカン・トップ40」なるチャート番組(40位って今考えると中途半端な数字だなー)があって、ブラコンとかバラードものがひしめく中で「なんか妙に単調で暗くて地味な曲がチャートを上がってきてるなー」と思いながら聴いてたのをぼんやりと覚えています。そしてそれが「ニューウェーヴ」なるものの初体験でした(デュラン・デュラン以外で)。んで、この曲を何度か聴いてるうちに、その地味さ加減の裏側に得体の知れないミステリアスなものを感じて、気がついた時にはすっかり虜に。ワクワクしながらアルバムを買ったのですが、いざ聴いてみると、「SO ALIVE」以外はあんまりピンと来なくてしばらく放置して、そのまんまというなんとも失礼な扱い方をしてしまった一枚なのです。が、こうして15年後に改めて聴いてみますと、“ラヴ・アンド・ロケッツ”という名前のイメージに忠実なダニエル・アッシュのヴァーチャルなグラム・ロッカーぶり(つうかT.REXなりきりっぷり)とアメリカ大衆の求める大味なわかりやすさがガチーンと合致しまくったミラクルな一枚であることがよーくわかります。つまり、(同時期にキュアーやザ・チャーチなんかが受けてたことにもよく現れている)米国人の「英国的な暗黒」への(一種のコンプレックスともいえるような)憧れと、グラムが本来内包していたベタなエンターテイメント性とカッコよさの二つを兼ね備えていた所が当時の米国の若者のハートをグッと鷲掴みにしたのでしょうな(加えて「SO ALIVE」での、キャメオ辺りをお手本にしたかのようないかにも80年代ギッシュなドラムのビート感がヒットに拍車をかけたのは言うまでもなし)。でも面白いのは全体のサウンドは徹底的に地味、だということ。普通に聴いたら売れる要素皆無。何しろ最もキャッチーなのがあの「SO ALIVE」ですからね。全体のトーンのダークさというか地味さ加減は推して知るべし。さらに、曲自体はかなりベタっちゅうか物凄く単純なロックンロールなのに、なぜかサウンドがどこか肉体性や現実味に欠けているところ(目は開いているけれども瞳孔が定まってない、みたいな)もなんとも奇妙。でもそれらが全てマイナス要素になるんじゃなくて、「何だかミステリアスでクール!」という受け取られ方をされたのが全ての勝因だといえるでしょう。

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