11月17日の音飯

ANTHOLOGY


FAT MATTRESS / ANTHOLOGY: THE BLACK SHEEP OF THE FAMILY (CASTLE)
 前回のクリスマスを聴いてて「何かに似てるな〜」と思ってて、今朝やっと気がついた。これだ。JIMI HENDRIX EXPERIENCEのベーシスト、NOEL REDDING率いるFAT MATTRESSの音にソックリなのだ。69年から70年にサイケ期の終わりとハード・ロックプログレへの橋渡し的な時期に生まれた、ブルースというルーツに寄りかかりすぎない白人の白人による白人のための白いサイケデリック・ロック。もしくは英国産サイケ・ポップが成熟を迎えた姿、ともいえるような音。メンバーにIVY LEAGUEの元メンバーが参加していることもあってハーモニーもバッチリで、まさに魑魅魍魎の類がアンダーグラウンドから次々と登場していた当時の英国のロック・シーンにおいて、一瞬だけ通り抜けた一陣の爽やかな突風という印象。どうしてノエルが(当時としては既にかなり少数派だったと思われる)こういった類のロックを目指したのかと言えば、やはりジミヘンのおっさんの存在が大きかったのではないかと思います。というか、もし身近にあまりにも巨大な才能を持つ人間がいた場合、その人間と同じことをするのはもはや自殺行為に近いと思うのだけど、ノエルの場合は、白人にしか出せないメロディ感覚やハーモニー、そこから生まれる「白さ」を全面に押し出すことで「エクスペリエンス」という黒い呪縛から逃れたかったのではないかと。残念ながらその試みは大きな成功を収めることなく終わってしまうのですが、それでも残された2枚のアルバムからは、今でも薄い霧に包まれた英国音楽の香りが濃厚に立ち込めていて、とても魅力的なのです。TRAFFICやFAMILYやMAGNA CARTAといったバンドの影響が断片的に表れては消えていくようなサウンドは、B級感はさすがに否めないけれど、そういったバンド群のもつある種の「重み」が殆どないんです。要するに(繰り返します)おっさん臭くないんです(比較的)。彼らこそ60〜70年代ロックと今の若い世代のリスナーの間にに立ちはばかるこの大きな壁をひょっこり越えてくれる存在のひとつだと私は思います。いや、思いたいです。無理矢理。っていうか、若い頃に『BOLD AS LOVE』の物凄いギター・プレイの合間にひょっこり現れる「SHE'S SO FINE」(ノエル作)のなよっとしたポップさが大好きで、そればっかり聴いていたような人間(私)にとっては、ドス黒くそそり立つ圧倒的な力強さもいいけれど、青白い弱々しさのもつ奇妙な吸引力にも強く惹かれてしまうのです。