ヴィッキーとマッケイ

DAVE MACKAY & VICKY HAMILTON / DAVE MACKAY & VICKY HAMILTON
(1969 IMPULSE)
 緑の中で仲良さそうに座る二人のジャケが印象的なアルバムです。“緑と二人”ジャケというと同じく69年作JACKIE & ROYの『GLASS』を思い出しますが、あれが69年というサージェント・ペパーの残り香的な時代性を反映させてたのに対し、こちらはもちっとジャズ・ヴォーカル寄りでしょうか。
 冒頭のデイヴ作「NOW」にしても続く「SEE YOU LATER」にしても実に洗練されていて淀みがなくスムーズで、まさに自然を映したジャケに忠実な、ナチュラルな音の質感に貫かれています。かと思うと「JACQUE THE JUNKMAN」「JERSEY BOUNCE」辺りのちょっとコミカルさも漂う軽快な演奏と歌は「JACQUE THE〜」の作者でもあるヴィッキーさんの持ち味なのでしょうか。そういえばこの人、ジャケや内ジャケの写真を見る限りちょっとELIS REGINA似の何だか明るくて天真爛漫な性格の持ち主のように見えます。笑うと近くにいる人の背中をバンバン叩きそう(偏見)。しっとり聴かせる「LIKE ME」に続いて(恐らくここでA面終わりB面へ)、グルーヴィーな「SAMBA FOR VICKY」はタイトルどおりデイヴさんがヴィッキーに捧げたサンバってことでしょうか。エレピの音色とフルートの涼しげな音にヴィッキーのスキャットが絡まって何ともひんやりとした空気を作り出しています。かと思えば「BLUES FOR HARI」ではなんとシタールが飛び出すほんのりラーガなグルーヴィー・チューン。とはいえ、シリアスにはならず、どこかコミカルなのはやっぱり作者ヴィッキーさんの持ち味なのか、それともラヴ&ピースに陰りが見えてまた別の時代へと移行していく空気の表れなのかしらん。まぁ、シタールの漫画チックなフレーズを聴くと間違いなく前者なのでしょうが、ここは小難しいことは考えずに踊ったモン勝ちです。「なになに? 何が起きてんのー?」と突然子供達が歓声を挙げる「ELEPHANT SONG」はこれまたヴィッキーさん作のコミカル&グルーヴィー・チューン。シャープなドラミングとそれに絡むフルートとエレピの転がるような疾走感が冒頭のでっかい象を発見した子供の如く否応なく気分を高揚させてくれます。後半の子供とヴィッキーさんの会話も楽しそう。かと思うと「MOON RIDER」では一転して「月」を思わせる幽玄な曲調へと突入。しかしリズムはあくまでグルーヴィーでこれまた疾走するリズム隊と霧の様なフルートの絡みがなんとも幻惑的で最後にはヴィッキーさん月に不時着。ラスト・チューン「HERE」は久々にしっとりと聴かせる二人のデュオで一件落着、とこのようにしてアルバムは幕を引きます。ふーっ。
 とにかくこのアルバム、聴き心地がとてもスムーズで耳に疲れません。それはジャズ・ヴォーカルもののマナーに則しつつも同時にポップでもあり、バラエティにも富んでいるという硬と軟の絶妙なバランス感に因るものではないでしょうか。そういう意味でアルバムのトータリティとしても一級品です(特に後半(B面)での途切れることのないグルーヴ感)。恐らくこれはヴィッキーのおちゃっぴい(?)な部分をデイヴの洗練が優しく包み込んであげているからではないでしょうか。こんな素晴らしいアルバム、リリースがCELESTEだからといって「またオシャレものかー」とかいって素通りしてしまうのはちょっと勿体無いです。もしこのジャケにピンと来たら是非。
 ここからは余談になりますが、どうもこのデイヴさんは盲目だったそうですね。このアルバムでの各楽器の音の鮮明度や「ELEPHANT SONG」「MOON RIDER」辺りの視覚的なSEの巧みさには視力を失った代わりに得たものが反映されているのではないでしょうか。また、このアルバムの2年後にヴィッキーさんは白血病が原因で帰らぬ人になってしまうのだそう。その事実を考えてこのジャケの楽しそうな二人の姿を改めて見てみるとちょっと切なくなってしまうのですが、それでもここに収められている音楽の鮮やかさは少しも衰えることはありません。

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