軽率

indiscreet


SPARKS / INDISCREET (ISLAND)

 4、5年前に「グラムロック大全集」なるビデオで見た、つぶらな瞳をキラキラさせながらオペラチックな裏声で歌いあげる弟(なぜか前歯が一本欠けていた)と、その横でピアノを弾いてる完全に挙動不審な兄(上半身は微動だにせず腕だけ動かして鍵盤を叩きつつ目だけキョロキョロさせる)の姿が目に焼きついて離れなかった変態ポップ・デュオ、スパークス。特に兄のキャラは日本で言えば魔夜峰央高田純次の系列に属する独特の“おふざけ”ダンディズムを濃厚に醸し出しており、脳にクラクラきました。
 いまだ現役バリバリ活動中の彼らですが、やっぱりアイランド時代の最初の3枚の面白さは格別だと思います。そんな中でもこの『indiscreet(邦題:スパークショー)』はとにかく勢いのみで突っ走っていた印象のある最初の2枚とは異なり、割と腰を落ち着けてバカをやろうとしている節があります。即効性のポップ・チューンが減った分、兄の毒ソングライターとしての才能が全面開花。ヴォードビル調やマーチ・バンド風、インチキ・オリエンタル、果ては宮廷音楽風(?)など、様々なバリエーションのアレンジをもたせつつも、一筋縄ではいかないネジれたポップ・ソングをこれでもかと叩きつけてきます。一方弟は弟でシアトリカルなヴォーカリゼーションと役者っぷりに磨きがかかり早くも堂に入った歌いっぷりで、さらにコンセプチュアルかつおバカなジャケもバッチリキマっていて、初期のグラム路線の集大成といえる実に聴き応えのある作品に仕上がりました。そんな中でもやっぱり最高なのは「IN THE FUTURE」や「HAPPY HUNTING GROUND」といった辺りのハイテンションで駆け抜ける疾走(躁)チューン。特に「IN THE FUTURE」は出色の出来で、後の『NO.1 IN HEAVEN』でのテクノ/ディスコ・ポップ路線を早くも予見させる曲調にはもうアドレナリン出まくり。やはりこのデュオは兄の変態性と弟の美しさとの対比と摩擦から生まれる倒錯した快楽性こそが最大の醍醐味ですね。そういえば兄弟ポップス・デュオといえばわが国ではキリンジという人達がおりますが、彼らも兄の作る底意地の悪さとエロティシズムを秘めた高品質なポップ・ソングを、美しい歌声をもつ弟が歌うというある種のフェティシズム(?)という点においては共通する部分が多いのではないかと思います。
 余談ですが『INDISCREET』(無分別、軽率な)という、まさしく彼らの音楽性を的確に言い表す言葉をタイトルに冠した作品が発表されたのが75年。一方で奇しくもBRIAN ENOの(後のアンビエント・シリーズの先駆けとなった)『DISCREET MUSIC』(思慮深い、控えめな音楽)が発表されたのも同じく75年と、“思慮深い”と“軽率な”という全く正反対の性質をもつ音楽が同じ年に(後のエレクトロニクス・ミュージックにそれぞれ異なる方面で多大な影響を与えることになる二組のミュージシャンの手によって)生まれたというのは何だか面白い偶然ではないかと思います。

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