11月24日の音飯

strong in the sun


TIR NA NOG / STRONG IN THE SUN (CHRYSALIS)

 アイルランド出身の男性フォーク・デュオ、ティア・ナ・ノッグの三枚目のアルバム。ゲール語で「不死の国」を表すという名前通り、“幽玄”や“繊細”という言葉がよく似合う独特のアコースティックな音世界を展開していたファーストから、ドラムスが入ってちょっぴりポップになったセカンドを経て、この73年発表のサードではさらに一皮向けてよりポップ、もしくはコンテンポラリーな曲調が増えたという印象。これは本作のプロデュースを努めた元PROCOL HARUMのキーボーディスト、MATTHEW FISHERの功績による所が大きいと思われます。一方でメジャー(CHRYSALIS)からの3枚目ということで、そろそろポップ方面も視野に入れておかなくては…というレーベルの思惑もあったかもしれません。とはいえ、とても聴きやすくなった一方で、本来の持ち味である格調高いクラシカルなフォーキーさも殆ど失われていないところにこのデュオのポテンシャルの高さを見るような気がします。興味深いのは前年の72年に発表されたNICK DRAKEの『PINK MOON』から「FREE RIDE」をカヴァーして、しかもそれをアルバムの冒頭にもってきていることで、同アルバム収録の「PLACE TO BE」の歌詞に出てくる印象的な一節をアルバム・タイトルに持ってきている(と思われる)辺り、彼らがあのアルバムに少なからず影響を受けていることは想像に難くありません。さらに興味深いのはニック・ドレイクがあの作品でより内面的なパーソナルな表現に向かったのに対して、彼らは意図的にその正反対の、より外側に開かれた表現を目指しているということです。それは件の「FREE RIDE」のカヴァーのアレンジが割と陽性で開放感に溢れたものであることや、ニックが「I WAS STRONG IN THE SUN」(その後「NOW I'M WEAKER THAN THE PALEST BLUE...」と続く)と歌ったのに対し、彼らは「WE GOTTA BE STRONG IN THE SUN」と歌っていることからも明らかだと思われます。ひょっとしたらこのアルバムでの変化は単なるポップ化ということではなくて、『PINK MOON』という作品に対しての彼らなりの返答という意味合いも含んでいるのかもしれません。「あんたは月の下でそうしたけど、俺達は太陽の下でこうやって歌っていくんだ」っていうメッセージが込められているのかも(そう考えると「不死の国」というバンド名も何だかとてもポジティブな響きを持つように思えてきます)。ただ、皮肉なことにこのアルバムが彼らのラスト・アルバムとなってしまうのですが(後に再結成して95年にアルバムを一枚発表)、もし仮にそうだったとすれば、ここに収められた歌の数々は74年に惜しくも世を去ったニックへの最高の鎮魂歌になったのではないかと思います。