12月2日の音飯

first album


ROGER MORRIS / FIRST ALBUM (REGAL ZONOPHONE)

 秋の木立に佇む男が一人。その名はロジャー・モリス。その経歴は謎に包まれており、71年に人知れずひっそりと発表された唯一のアルバムはマニアの間では伝説の一枚と言われていたとかいないとか。しかし、今回VINYL JAPANからめでたく再発盤がリリースされることと相成りました(拍手)。で、早速聴いてみたわけですが、ジャケットの印象どおりの渋めの演奏(参加メンバーはMARK-ALMONDのJOHNNY ALMONDやFAMILYのJOHN WEIDER、さらにPRODUCERに元TOMORROWのKEITH WESTと、ひそかに豪華メンツ)をバックに歌うロジャーの歌声はどこか頼りなく、所在なさげ(BEN FOLDSの声をさらに弱々しくしたようにも聴こえる???)で、THE BANDやDYLANのようなバック・トゥ・ルーツ的なアーシーな音との調和と不調和の合間を行ったり来たり。そんな申し訳なさそうな様子に何だか思わずどっと親近感。沼地にどっぷりと肩まで漬かってしまうわけではなく、おそるおそる爪先からそっと入ってみました的な慎ましさとでも言いましょうか。きっといいやつですよ、この人。友人に「金貸して」って言われたら断れないタイプですよ、きっと。音の志向としては完全にアメリカンなのだけど、そんな中にも「SHOWDOWN」や「POOR LUCY」といった、まるでPAUL McCARTNEYやSQUEEZEのGLEN TILBROOKが書きそうなブリティッシュ・テイストを匂わせる曲がひそかに挟まれたりするところにこのアルバムの不思議な面白さを感じます。なんだかいい意味で(?)迷いが感じられるんです。アメリカとイギリスへと続く道の岐路の真ん中で「どっち行こうかなぁ」なんてオロオロしながら迷ってる感じ。「アイダホへ行きたいなー」って言いながら英国式庭園を散歩してるみたいな。その中途半端さが当時は注目されることなく消えてった所以なんでしょう。でも、2004年の今聴くとどうもそんな途方に暮れてるどっちつかずのあんちくしょうに妙な親近感が沸いてしまうんです。「どっちやねん」って思わず苦笑いしながら突っ込み入れたくなる感じ。憎めない。たしかにアメリカの風景を描いているはずなのに、どこかディテールがぼやけた音像に包まれているこのアルバムは、まるで夢の中のラジオで流れてくるカントリー・ミュージックのよう。