今日の音飯

SYD BARRETT / THE RADIO ONE SESSIONS (STRANGE FRUIT)
 シド・バレットの今まで失われていたとされた71年のボブ・ハリスの番組のためのセッション音源3曲が追加された完全版のラジオ・セッション集。これは最早PINK FLOYD期のような“サイケデリック”ではないし、ましてや、“アシッド・フォーク”でもない。結果的にここに残っているのは、対象のいない奇妙なラヴ・ソングを歌っている人と、そのギター。2つのスタジオ盤にあった多少の装飾もここでは剥ぎ取られ、それら2つの音と、控えめなベースとパーカッションがたしかにスピーカーの向こうに聞こえるのだけれど、本当はスタジオの中には誰もいなかったのではないかという疑惑に襲われてしまうほどの途方もない欠落感をその背後に感じる。情熱や苦悩や楽しさといったあらゆる感情から無縁の、まさに緯度ゼロの地点に佇んだ極点の音楽。発掘された音源の音の悪さも逆に“効果”として聴こえてしまう、そんな奇妙な負の吸引力には屈しがたい魅力があり、またそれは聴く側の精神状態がそのまま映し出される鏡のような音楽でもある。