今日の音飯

THE PONYS / SHISHIMUMU (TIME-LAG)
 ポートランド出身のバンド、ポニーズのデビュー・アルバム。なんとも素朴で不思議な味わいのイラストに彩られたこの子馬達の奏でる音楽は、例えばニュージーランドのTHE CLEANがGORKY'S ZYGOTIC MYNCIの世界観に足を踏み入れてしまったかのような、レイドバックした浮遊感を伴うジャングリーなギター・サウンドを聞かせてくれる。アルバムを順に追ってみると、まず組曲のように曲が繋がっている1曲目から3曲目の流れが素晴らしい。ゆっくりと緩やかに始まるオープニングから徐々にメランコリックな旋律が起ち上り、そして3曲目でサイケデリックなうねりへと突入していくという流れが実に鮮やか。アナログではここまでがA面。続いてB面では彼らの素朴なメロディの良さが素直に出たいい曲ばかり。特にヴォーカルはやや線が細いながらも情感描写がさりげなく巧み(ここら辺がゴーキーズのエイロス・チャイルズを思い起こさせるのだ)で、とても魅力的。「DOMESTIC PET GROWING SEEDS」というマーチ風の曲ではおもちゃっぽいサウンドが飛び出し、ちょっぴりOF MONTREALを思い起こさせる。でもサウンドはあくまでメランコリック。続くC面の「PARASITIC WEDDING VOWS」「THE MISSING PARACHUTE」は彼らのそんなメランコリックな面がさらに強調される。スロウでほの暗い雰囲気。BEACHWOOD SPARKSのラストとなってしまったミニ・アルバムのうら寂しさを思い出したりも。そしてこれがターニング・ポイントとなって、最後のD面ではジャングリーなギター・サウンドが炸裂。C面が「静」ならD面はまさに「動」。全体的にアップテンポでほどよく乾いたギター・サウンドニュージーランド直系か)が耳に心地よい。「WIMP SOUFFLE'」という曲ではヴォーカルの節回しに一瞬だけデビッド・バーンの面影が垣間見えたりも(気のせいか)。そして、最後の「CHEER UP MY MAN」ではBREAK UP THE BAND〜♪なんて歌って(るように聞こえるんだけど…)、やっぱりどこか物悲しく終わる。…と、まぁなんとも聴き終わった後に不思議な余韻を感じさせるアルバムだ。放課後の学校の誰もいなくなった校庭という空間特有のあの漠然とした、でもなんとなく心地よい孤独感のような感覚を思い出させるものがある。そんな、どこか日本人の感性にも通じる諦念混じりのワビサビもありつつ、アルバム全体の流れも実にスムーズで、派手さはないけれど本当に素敵な音楽が詰まった作品だと思う。今後の活躍が本当に楽しみ…と思ったらなんとシカゴから同名異バンドがデビューしてしまった!との情報が。一体どうなる事やら…。ハラハラ。とにかくこのアルバムは名作。文中に出てきたバンドのファンの人なら買って損なし!