今日の音飯

XTC / ENGLISH SETTLEMENT (VIRGIN)
今更語るべきこともないだろう名盤である。今や名盤という言葉がインフレを起こしてる今日において、なお敢えてこの言葉を使いたくなるのはこの音がある意味ロックの王道中の王道、いわばど真ん中にあるからである。それは60年代から始まったロックの歴史が70-80-90年代を経て様々な形で新陳代謝的に進化を遂げてきた中、2000年代に入って突如として進化を止め、ひたすら拡散していくような印象を受ける現状から見てみた時に、仮に60年代初期を始点とし、2000年代を終点と見た時に、この82年発表の『イングリッシュ・セトルメント』は時代的にも音楽的にもそして存在感としても丁度その中間に位置する存在だからである。思わず「王道」と書いてしまったがこの言葉はあまり適切ではないかもしれない。というのは彼らの音楽は王道と呼ぶにはあまりにも多くの音楽性が内包されているからだ。そう、彼らの凄いところは様々な音楽の要素を一度バラバラに解体し(所謂ダブの手法)、さらにまたそれらを一から再構築して、オリジナルかつ普遍的なポップ・ソングを作り上げてしまった点にある。まるで組み立てパズル、もしくはアルチンボルトの作品のように。そしてこのアルバムこそがその音楽探求のひとつのピークと呼べるような作品なのである。フォークからワールド・ミュージックまでを視野に入れた幅広い音楽性と、それをひとつにまとめるスケールの大きなダイナミックなサウンド、そして緻密なスタジオワークと尽きぬアイデア。個々に内包されている曲の情報量の豊潤さだけでなく、それが結果として超一流のブリティッシュ・ポップにまで昇華されている点に、もはや驚きを通り越して執念すら感じさせる。そこにはどこか英国人的頑固さと英国人特有の神経質さも見え隠れする。60年代の『sgtペパーズ』が一枚のアルバムの中で様々なスタイル音楽を展開していったのに対し(そういえば前作に「sgtロック」という曲があった)、この『英国的解決』は一曲の中に幾つかのスタイルが混在しているという点で正しく80年代的であり、ロックとして王道なのである。ここまでやられてしまったらこの後の時代の多くの人々は、もう過去を全て忘れたフリをして道化となるか、もはや開き直るしかなかったのだ。しかし、一方で歌詞に関しては割と王道というか比較的ストレートなメッセージを乗せているのが彼の幾層も奥にある素の面を見せられているようで印象深い。そのようなバランス感覚といった点でもこれはまさしく“中間地点の傑作”といえるだろう。